Ψυχή-黎明 02-2
第一幕:来訪者
LEP ライフ・エレメンタル・パーティクル
02-2『O.UNI-X 流れ星の豪雨』 流星雨と多層空間
ライトの淡々とした報告の直後、突然ブリッジを激しい緊急警報が切り裂いた。赤色灯が点滅し、計器類がけたたましい音を立てて異常を訴える。
「な、なに!?どういうこと?!」
エフトが叫ぶ間もなく、O.UNI-Xのメインスクリーンに映し出された宇宙空間は、瞬く間に悪夢へと変貌していた。無数の隕石が、まるで嵐のように船めがけて殺到してくる。一つ一つがこの船を破壊し尽くすほどの質量を持ち、それらが狂ったように降り注いできた。
「回避!全速力で回避しろ、エフト!」
ライトが冷静な、しかし強い声で指示を出す。
「わ、分かった!けどこんなの、聞いてないってば!」
エフトは悲鳴にも似た声を上げながら、必死に操船桿を握り、船体を左右に、上下に振る。しかし、隕石の数は圧倒的で、次から次へと迫りくる。船体には衝撃が走り、ブリッジ全体が激しく揺さぶられた。
ラブ船長は、揺れるモニター越しにその流星雨の猛威を睨みつけつつ、エフトとライトの緊迫した会話に耳を傾けていた。
「シールド出力最大!船体損傷個所を特定し、緊急修復モードに入れ!」
「損傷、多数!このままでは持ちません!」
シオルが手元のモニターで船体の状態を報告する。ライトの声に焦りの色が滲み始める。
その間も、プロジェクト責任者のワンは、ブリッジ後方で静かに立っていた。彼の目は、相変わらず誰にも見えない「お友達」――O.UNI-Xの主賓として同乗するLEPと交信しているようだった。
「……うん、そうだね、これはちょっと想定外かな。けれど、そうなんだ。……うん、理解してる。彼らの安全を最優先に……」
彼は誰かと状況について議論を始めているようだった。が、その会話の内容は、他のクルーには聞こえない小さなもので、仮に聞こえたとしても理解はできない。
今回が初参加の新人航行士シオルは、この未曽有の事態に焦り、自身の担当である船体の状態確認用モニターを見つめながら、船長のラブに質問を繰り返した。
「船長!この状況、どうなってますか!?まさか、『洗礼』って言ってたのこれなんですか!?こんな流星の群れ、事前情報にはなかったはずです!現状を打破する手段はありますか!?早く打開策を!」
彼女の矢継ぎ早な問いかけは、船長であるラブや、主操船士エフトの苛立ちを募らせていくばかり。案の定、イライラした感じでエフトの動きが雑になっていく。
「うるっさい!分かってるっ!こんなの避けきれるわけない!普通なら!」
エフトが面倒くさそうに、叫んだ。操船自体も怒りに乱暴になっていく。
「そうだな、いつものお前の技量では無理だな、エフト」
ライトが冷静に、しかしチクリと小言を言い始めた。 ライトの小言にさらに面倒な気分になり、エフトの操船は一層乱暴になる。船体は大きく傾き、後方のクルーであるシオルとワンが、座席に叩きつけられた。
「エフト!」
ラブ船長の一言が、ブリッジに響き渡る。その声には、怒りも焦りもなく、ただ絶対的な信頼と肯定だけが込められていた。
「お前ならできる。集中しろ!」
その言葉は、乱れていたエフトの精神をぴたりと静止させた。彼女の荒れていた呼吸が整い、操船桿を握る手に迷いが消える。船体はまだ揺れるが、その動きに無駄がなくなった。
「まさかアンシブルネットワークの多層空間から戻った宙域で流星群に遭遇するなんて……予測なんてできっこない。これは計算外の出来事、ですね?」
シオルが状況を思い返すように、ブツブツと呟いた。 その呟きが、ラブの思考に電光石火の如く閃きをもたらした。
「……そうか!多層空間!ワン!」
ラブは、誰にも見えない「お友達」と議論中のワンに、鋭い声で話しかけた。
「ワン!!相談!」
Ψυχή-黎明