Ψυχή-黎明 02-1
第一幕:来訪者
LEP ライフ・エレメンタル・パーティクル
02-1『O.UNI-X 船内ブリッジ』 数万年の航海と最後の任務
O.UNI-Xの操船ブリッジでは、主操船士のエフトが軽やかな指捌きでコンソールを操作し、どこか浮かれた様子で鼻歌を歌っていた。
「ねえねえ、ライト、今回の航行が終われば、私達もようやくお役御免ってやつだね!あとは第三惑星にLEPをまいて、そしたらまったり帰るだけ!」

そう言う彼女の背後で、副操船士のライトが静かに応じる。
「そうだな、エフト。だが何度も言うが、まったり帰れる保証などどこにもない。ミッションはまだ始まってもいないんだから」
「ライトはいつもそう言う。シリコンでできてるからって、頭の中までカッチコチだね。もう少し柔らかくなってもいいんじゃない?」
エフトは振り返らず、口元を一瞬とがらせたかと思うと、すぐに笑みを浮かべてそう答えた。ライトはそんなエフトの言葉を軽く流すように、ただ静かにモニターを見つめている。彼女の言葉はライトにとっては、気まぐれな風のようなものでしかない。

ブリッジの後方、壁と天井に埋め込まれた無数のモニターに向かい、この運搬プロジェクトの責任者兼、ライフの監察官でもあるワンが静かに微笑んでいる。彼の視線の先には、微細な光の粒子が瞬いている。それは、彼らライフ監察官が言うところの「命」であり、この船の送り届けるべき乗客でもある。
これこそがLEPと呼ばれるもので、ワンたちが運ばねばならなくなった命の元素とも呼ばれるものだった。

そのワンの様子を遠目に眺めながら、今回が初参加となるシオルが、興味津々といった顔で船長のラブに尋ねていた。
「ラブ船長、あの、ワンさんのアレって、何か見えてたりするんですか?いつもあんな感じで、モニターで何もないところを見て微笑んでますけど……」

長身のラブ船長は船長としてのエリアに立ち、赤い長い髪をなびかせながら船の全体をチェックしていた。そうしてシオルからの何気ない質問に、モニタースクリーンから目も離さずに答える。
「ああ、あれね。 ワンはいつものことでしょ。初乗船のあなたには少し奇妙に見えるかもだけど、いい加減そろそろ気にしないで」

シオルは納得いかない顔で首を傾げ、しかしそれ以上追求することはしなかった。
探査船に乗り込む前からこのワンという人物が少々風変わりであることは聞いていた。そうして出港してから今日までの毎日、何度も見てきた様子でもある。
和やかな会話が続く中、暫くしてライトの冷静な、しかし少し緊張した声が、ブリッジに響き渡った。
「エフト、そろそろアンシゲートが開くぞ。アンシブルネットワークからの離脱時チェックを開始」
「はいよ!」
エフトが真剣な顔つきに戻り、指の動きに迷いがなくなる。彼女の指先が紡ぎ出す正確な操作音が、ブリッジ内の空気を少しずつ変えていく。
その様子を副操船席から確認しながら、ライトが全員に聞こえるようにこう告げた。
「そろそろ通常空間に出ます」
Ψυχή-黎明