Ψυχή-黎明 10
第一幕:来訪者
LEP ライフ・エレメンタル・パーティクル
10『O.UNI-X 異常』 予期せぬライフと沈黙のLEN
LEP配布前の最終確認として、ワンは惑星上の詳細な環境確認を開始した。センサーがスキャンを開始し、その結果がメインスクリーンに表示されると、ブリッジに再び驚きの声が漏れた。
「なっ……!?」
ライトが目を剥く。
「馬鹿な……既に、十分な量のLEPが第四惑星に定着している……!」
ライトが声を震わせた。本来、この船が運ぶべきLEPが、既に惑星全体に満ちているという。
ワンは、その異常な数値に興奮を隠せない様子で、観測装置のホログラムを操作し、LEPの発生源を特定しようとする。
「発生源は……やはり、一番遠くを回るあの衛星なんですね」
彼の指が、最も外側に位置する、直径3,474キロメートルの衛星を指し示す。
「この衛星の重力により、他の二つの衛星を巻き込んで軌道が不安定になっています。恐らく、この衛星自体が、LEPの生成と放出を繰り返している可能性があります」
LEPが惑星上で自然発生することは稀に存在する。しかし衛星そのものがLEPの発生源となっているケースは、宇宙の広大な歴史の中でも極めて珍しい。
ワンの瞳は、純粋な探求心と科学的な興奮で輝いていた。
「ははは……これは、本当に驚きだ。まさか、LEPがこんなところで循環しているのを見つけられるとは……」
ワンはそう小さく呟いた。その事実は、彼が誰にも言えない秘密でもある。
結果として、探査船の目的――LEPの惑星への配布――は、既に達成されていたことになる。
「LEPが定着しちゃってるってことは、これで、私たちの仕事は帰路の操船だけってことね!?やったぁ!?」
エフトが飛び跳ねてワンに聞く。ライトも、これまでの重苦しい雰囲気が一変し、どこかホッとした表情を浮かべていた。ラブ船長も安堵と同時に、どこか拍子抜けしたような表情を見せている。
しかし、第四惑星にこれほどLEPが満ちているにもかかわらず、ある異変があった。
「……妙です。これほどのLEPが発生しているのに、惑星のLENが応答してこない……」
ワンは戸惑いを隠せないで言葉をつづけた。LENとは、LEPの集合体であり、惑星の生命活動を司る存在だ。LEPが豊富であれば、LENも活性化するはずなのに、第四惑星からはその気配が全く感じられない。
謎が深まる中、ワンは探査船O.UNI-Xのマザーと現状の擦り合わせを開始した。
「マザー、第四惑星の現状について、詳細な擦り合わせをお願いします。特に、惑星LENからの応答がない状況について……」
ブリッジには、ワンの真剣な声と、マザーの無機質な応答が交錯していた。
Ψυχή-黎明